昔からの言い伝えで、「桐たんすは身を焼いて中身を救う」と言われています。これはいったいどういうことなのでしょうか。そもそも、江戸時代は火事が多く発生した時代でした。なぜ江戸時代に火事が多発したかまでは言及しませんが、一度この火事が発生すると、木造住宅だらけだった江戸の町は大変な被害をこうむりました。しかしこのような中でも、桐たんすにしまっていた大切な着物や小物だけは焼けずに無事であることがよくあった、ということからこのように言われています。しかし、桐も木である以上燃えないはずがありません。なぜこの桐たんすにかぎり中身が無事なのかというと、理由は桐自体の性質にありました。桐は多く空気を含んでいるので、熱の伝わりがほかの木材に比べ遅い、という特徴があります。燃え尽きるまで時間がかかる木材なのです。外は黒く炭のようになっていても、中身はきれいな白を保っている場合も多くあります。大切な印鑑や書籍類が桐の箱に収められているのはそのような意味からだったのですね。耐火金庫と呼ばれるものの内部にも桐が張ってあることが多く、その実用性を物語っています。古くからの知恵を継承して、今でも大事なものを桐に包んで保管する習慣があるのですね。